アルコールと睡眠の関係を科学的に解説

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アルコールが「寝つき」を良くする理由

アルコールは中枢神経に作用し、GABA(γ-アミノ酪酸)受容体の働きを強めます。
GABAは脳の活動を抑制する神経伝達物質で、「脳のブレーキ」と呼ばれる存在です。
この作用によって一時的にリラックス感が高まり、入眠がスムーズになります。

さらに、アルコール摂取は脳内のアデノシン濃度を一時的に上昇させます。
アデノシンは覚醒を抑制し眠気を誘発する物質であり、日中の活動量に比例して増加するものです。
また、アルコールは末梢血管を拡張させ、体温を低下させるため、体温リズムの変化によって眠気が生じやすくなります。

これらの作用により、「寝酒をすると寝つきが良い」と実感されるのです。


アルコールが「睡眠の質」を下げる理由

しかし、アルコールが良いのは入眠まで。睡眠全体の質にはマイナスに働きます。

  1. レム睡眠の抑制
    脳の情報整理や記憶定着に関わるレム睡眠が減少します。
  2. 深いノンレム睡眠の減少
    成長ホルモン分泌や脳・身体の回復に重要な徐波睡眠が浅くなります。
  3. 中途覚醒の増加
    アルコールが代謝される過程で交感神経が活性化し、夜中に目覚めやすくなります。
  4. 利尿作用
    尿量が増えるため、夜間にトイレで目覚めやすい。
  5. 耐性と依存のリスク
    習慣的に飲酒を続けると、脳はGABA受容体の感受性を下げ、アルコールがないと入眠しにくくなる「依存状態」を招きます。

アルコール依存症と入眠障害 ― 回復までの経過

アルコール依存症の人が断酒すると、離脱症状の一部として強い不眠・中途覚醒・悪夢が現れることがあります。

  • 急性期(数日〜1週間)
    不眠が特に強く出やすく、入眠困難や途中覚醒が頻発します。
  • 亜急性期(2〜4週間)
    睡眠構造の乱れ(レム睡眠の過多や浅い睡眠)が残り、まだ「ぐっすり眠れない」と感じる人が多い時期です。
  • 回復期(1〜3か月)
    脳内のGABA受容体や神経伝達物質のバランスが回復していき、次第に入眠や睡眠の質が改善します。
    多くの研究では、約1か月程度で大きな改善が見られるケースが多いと報告されていますが、長期の大量飲酒歴がある場合は数か月かかることもあります。

アルコールに頼らず入眠・睡眠を整える方法

科学的エビデンスに基づいた代替手段は以下の通りです。

  • 日中の身体活動
    有酸素運動はアデノシン蓄積を促し、また脳内GABA濃度を増やすことも報告されています。
  • 光環境の調整
    朝の自然光が体内時計をリセットし、夜のメラトニン分泌を促進します。
    夜はブルーライトを控えることで睡眠リズムを乱しにくくなります。
  • 体温リズムの活用
    就寝1〜2時間前の入浴により一時的に体温を上げ、その後の低下で自然な眠気が誘発されます。
  • 栄養的サポート
    • L-テアニン(緑茶由来)やマグネシウムはGABA受容体機能をサポート。
    • 発酵食品は腸内でのGABA産生に関与する可能性が示唆されています。
  • リラックス法
    深呼吸・瞑想・ヨガなどは副交感神経を優位にし、自然な眠気を引き出します。

まとめ

アルコールは「寝つき」を助ける一方で、睡眠の質を下げる確実な要因です。
深い眠りやレム睡眠を削り、中途覚醒を増やし、長期的には依存を招くリスクもあります。

アルコール依存症に伴う不眠は、断酒後すぐには改善せず、数日〜数週間は不眠が続くのが一般的です。
しかし、脳の神経伝達系が回復していくにつれ、およそ1か月前後から眠りが安定し始め、数か月で正常に近い睡眠リズムを取り戻すケースが多いと報告されています。

アルコールに頼らず自然に眠れる体をつくるためには、日中の活動、光と体温のコントロール、栄養・リラックス習慣を整えることが最も重要です。

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